2022年8月15日 インフレ動向からドル円相場を予想する

毎年、年初にその年の干支(今年はTIGER)の頭文字(英語)を使って、キーワードを発表しています。テーマは「(A)市場変動の主要要因」「(B)発生の可能性があるリスク」「(C)注目していきたい運用資産・通貨」の3項目です。それぞれ5つ、合わせて15の言葉を選んでいますが、今回は、その中の一つ(A:I)のInflation(インフレーション、以下インフレ)を取り上げます。インフレは金融相場に極めて大きな影響を与えていますが、ピーク感も出ています。現状と今後の見通しについて考え、ドル円相場にどのような示唆を与えるかについて予想します。

 

 

◆ アメリカの消費者物価は40年半ぶりの高水準、日本は低水準のまま

インフレとは、簡単に言えば「物価の上昇」のことです。市場規模が世界で最大のアメリカの消費者物価は【図1】の通りです。2020年は新型コロナショックで0.1%(年率、以下同じ)と低下しましたが、昨年4月から急上昇、2022年6月は、総合で+9.1%と、実に40年7か月ぶり、1981年11月以来の高水準となりました。また、米中央銀行(FRB、連邦準備銀行)が重要な指標と位置づける「コア」(物価の変動が大きい、エネルギーと食料品を除いた指数)は+5.9%と、こちらもほぼ40年ぶりで、1982年8月以来の高水準です。ちなみに、統計を取り始めて以降の最高は、1920年6月の23.7%で、原油価格が急騰したいわゆるオイルショックの影響で物価が上昇した1980年3月は、14.8%でした。一方で日本は、【図2】をご覧ください。こちらは消費者物価と生産者物価(日本は国内企業物価)総合指数の2020年からの日米比較です。

日米を比較すると、大きな違いが分かります。米国はパンデミック発生後、早い時期に物価上昇が起こり、しかも生産者物価(PPI)の上昇につれて消費者物価(CPI)も同じようなスピードで追随しています。これに対し日本は、国内企業物価(生産者物価PPIに相当)は早めの上昇となりましたが、CPIが追随せず、PPIとの差はまるでワニの口のように拡大しています。日本がいかに小売物価に転嫁できていないかを示しています。この状況が今後の日銀の金融政策にどのような影響を与えていくか、後半で見通しします。

 

 

◆ 金利引き上げを急ぐ世界の中央銀行

 次に、このような状況下で、金融市場はどのような相場展開となったでしょうか。まず直接的に影響を与える金利動向について分析します。物価高に対抗するために多くの中央銀行は政策金利【図3】を引き上げています。インフレ率との比較をしたのが【図4】です。

主要国の多くの国が、望ましいインフレ指数を定めています。それが「インフレターゲット」と呼ばれるもので、ほとんどは2%においています。デフレ(物価下落)に対抗するために、金融緩和政策をとって資金を市場に放出し、物価の上昇をもくろんできました。日本は2013年にアベノミクスの一環として、物価目標を2%におき、日銀が大量の資金供給を行いました。総裁の名前を取って黒田バズーカとも言われましたが、デフレから脱することができず、これまで物価引き上げの効果は全くありませんでした。

 

しかしアメリカは違いました。失業対策などパンデミック(新型コロナ)支援として政府は国民に多額の現金給付を行いました。そのため、働かなくても生活できる状態が生まれ、雇用ひっ迫、人材不足となり、海運陸運などのサプライチェーン遅延、断絶という供給制約が拡大していきました。これが原因となり賃金、運賃が上昇し、合わせて貴金属、エネルギーなどの原材料価格の高騰などでPPIは上昇を続け、そして小売価格への転嫁が容易な米国のCPIが上昇していきました。

【図4】で明らかなように、新興国が物価上昇に合わせて早くから政策金利を引き上げたことに対し、先進国の引き上げ幅はインフレ率と比較して大きな開きがあります。今後、この開きが縮小する方向に進むのは間違いないと考えていますが、それが、CPIが低下していくか、金利が上昇するか、あるいは両方か、注目しています。 

 

 

◆ 見通し:物価が今後低下し、金利差が縮小し、ドルは下落する

 ここで今後の見通しについて考えます。まずCPIが金利動向にどのように影響を与えたかを、10年国債と比較してみました【図5】。2020年までは両者はかなり連動していましたが、2021年からは、CPIが垂直的に上昇しているにも関わらず、CPIの上昇は3%半ばまででした。そして最近は10年債利回りはCPIに追随せずに、むしろ低下気味に推移しています。市場は物価が低下していくことを見通しているとも読めます。

 

次にドル円相場について考えます。「お金は高い所に流れる」との特性から、一般的には金利の高い通貨は買われる傾向があります。為替相場は2通貨の関係で出来上がりますが、ドル円で言えば、高い金利のドルが買われ、金利の低い円は売られることになります。そこで重要になるのはドルと円の金利差です。どの期間の金利が有効かは、決まっているものはありませんが、10年債利回りを使用することが一般的です。これらの金利関係とドル円相場の連動性を示したのが【図6】です。上段は日、米の10年債利回りと日米金利差の推移で、下段は同期間のドル円相場です。金利差が拡大するとドル高(円安)になり、金利差が縮小するとドルは売られやすいことがわかります。厳密にいうと、変動要因は金利差の他に、ファンダメンタルズ(経済の基礎的要因)、実需、地政学的リスク等種々の要因がありますので、金利差だけで決めつけることはできませんが、有力な要因であることに変わりがありません。

 

 結論的には、物価上昇率は今後低下し、FRBのドル政策金利の上昇速度も低下、一方日本は【図2】で、ワニの口は閉じていき、結果として日本の政策金利も引き上げられる時期も見えてきます。これまで物価上昇の大きな要因となっている原油価格が低下し、食糧価格も低下中(FAO、国連食糧農業機関統計)であるからです。そして、何よりもアメリカ経済のGDP成長率が2四半期連続してマイナス(リセッションの定義に該当)になったことも、金利引き下げの要因に結びつきます。とすれば、ドルは売られ円が買われる時期は遠くないと読めます。そこで、最後にドル円を予想です。「今年中は、一旦ドル高になったとしても140円には届かず、今後徐々にドル安・円高となり、2022年末は125円」と考えています。

 

 

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一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)   小池 正一郎  CFP®  

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とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

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