2019年11月19日 住宅確保要配慮者の住居支援と空家(室)問題解消の実例

 

◆『大家さんとの出会い』
 大家さんと知り合ったのは、平成15年の冬でしたので、あれから15年以上お取引させていただいております。
当時、大家さんが悩んでいたのは、自宅裏の古い木造アパートの相続問題でした。相続人3名の兄妹で遺産分割協議が進まず、長い間共有物の状態であったようでした。そこで私がお兄さんと妹さんが、この度の遺産相続において、何を望んでいるかをご本人のお話の内容から仮説を立てて、ポイントを絞ったアプローチをご提案しました。
 手法としては『代償分割』になりますから、お金を欲しがっているお兄さんへ、代償金を支払う代わりにアパートを自分単独所有にする遺産分割という内容です。妹さんは相続問題にあまり関わりたくないご様子のようで最終的には遺産相続放棄を選択されました。お兄さんはというと、積まれた現金を見て、即、遺産分割協議内容に合意したそうです。

 

◆『再びターニングポイントが』
 念願の相続したアパートでしたが、築年数が古くしかも長い間空家(室)になっていたので、大家さんとしては、賃貸するにも改修費が掛るため、手付かずの状態が続きました。
 ところが、折しも私の業務で、年金と自宅の売却資金で生活したいご姉弟がのでおりました。古くても、またあまり修繕がされてなくても、賃料の安いアパートを探したいとのことでしたので、大家さんにアパートをお借り出来ないかと相談したところ、現状で良ければ貸して下さることになり、相続問題から数年に渡たり空家(室)になっていたアパートに入居者が入ることになったのです。それも2室です。
 このご縁で、私もアパート管理を引き受けることになりました。8室のアパートでしたが、大家さんもご自身で改修工事を進め、一時は6室まで入居者が住んでいました。立派なアパート経営者になられたのです。

 

◆『古さには勝てません』
 しかし、その後は退去後に新たな入居者が決まらず、入居者一人の状況まで落ち込んでしまいました。大家さんもより快適に住んでもらえるよう、修繕にも力を入れていただきましたが、築年数の進んだ建物やお風呂やトイレ、キッチンなどの住宅設備の古さには、見に来る方に入居まで決心していただくとこは出来ませんでした。もちろん、募集賃料も下げていきましたが、それでも3年ぐらいは空家(室)が決まりませんでした。

 

◆『起死回生』
 ところが、ある不動産店の方から電話があり「生活保護者」の方でも入居可能かとの相談でした。従来、入居者の属性からしますと憂慮するところでしたが、時代も変化もあり『住宅確保要配慮者』に注目していた私は、「大家さんは検討していただけます」と即答しました。既に大家さんには、入居に少し配慮が必要な高齢者や生活保護者、外国人の方の受け入れを提案しておりましたので、かえってチャンスと思い即答できたのだと思います。
 大家さんからは、案の定「志村さんがみて良さそうであれば、進めてください」とのご返事でした。
 ただ、私も生活保護者の方の入居のお手伝いは初めてだったので、より慎重に行いました。気を付けた点は、支給される保護費がどのような制度か、入居する本人のタイプや意思、それに生活保護に至った経緯、保護費の支給が停止された後の家賃の支払いなど、本人や担当行政の方としっかりやりとりをしました。また、賃料補償する制度も念のため利用しました。

 

◆『本人との面談や手続きサポート』
 今回の取引で、生活保護者の方が一般の方と違い社会的は弱者であることは、入居までの手続きに手間がかかることから実感することができた一方で、アパートで一人暮らしをして自立したいという入居者の強いニーズも感じることが出来ました。
 何よりも私たち住まいを斡旋する立場のものが、しっかり取り組めば、空家(室)対策にもなって、貸したい方と借りたい方の真のニーズがマッチングするという実感を得られたことが、私自身も不動産の実務家として貴重な経験となりました。

 今後も入居希望者と面接を重ね手続きをしっかりサポートし、一定の信頼関係を得ることで、入居後のトラブルリスクも軽減できると期待しつつ、住宅確保配慮者の居住支援と空家(室)解消問題の双方解決に注力していきたいところです。

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)  志村 孝次 AFP

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

 

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