2017年12月1日 エコーチェンバー現象?から家庭内の民主主義を考える

 

 少し前のことですが聞きなれない言葉がNHK特集「ソーシャル分断社会」で紹介されました。
エコー(共鳴)+チェンバー(部屋)で「共鳴する部屋」を意味しており、閉ざされた部屋に音が反響する現象のことをいうそうです。この言葉は2,000年頃から使われており、インターネット社会では民主主義社会とは相反して、「自分の関心の中に閉じこもり、自己充足的な生き方に閉じこもってしまう」可能性がある例えとして使われています。
このエコーチェンバー(以下EC)現象について、インターネットの仮想社会だけでなく、広く社会現象としてとらえ、ファイナンシャルプランナー(以下FP)の立場から考えてみます。

  

◆SNSに見られるEC現象とは
 SNSの世界では、自分が聞きたいと思う情報にしか耳を傾けず、異質な人々と交流を避け、同質の人としか交流しないという傾向が見られます。その意見が事実であるかどうかは関係なく、異なる意見は排除し、共感できる仲間うちの意見だけを交換する。そのうちに、意見はやがてエスカレートして、より過激になっていきます。このようなSNSの現象は、昨年の米国大統領選のトランプ現象としても注目を集めました。私の身近なところでも、ご近所さん同士の意見交換の場としてSNSが使われましたが、やがて限定したメンバーに閉ざされて、特定の人の誹謗中傷や、町内行事に対する過激な批判やこき下ろしに転化して、地域社会づくりどころではなくなったことがあります。
できることなら、異質な意見であっても交換し合い、より高いレベルに真実を求める健全な社会であってほしいものです。

 

◆高齢化社会に見られるEC現象とは
 人は一般的には、年齢とともに自分と合わない他人の意見を排除する傾向があると言われています。民生委員として色々な方と接してきてわかったのは、年齢とともに自分の意見に固執する傾向があることで、旧友、遊び仲間、ご近所などの交友範囲はやがて縮小し、最後は閉じこもりにつながることもあります。このような傾向は、認知症の兆候につながる要因の一つとも言われています。
そうならないためにはまず相手の意見を聞き入れて、感謝の気持ちを持って相手を敬って接することが必要でしょう。旧友、遊び仲間、ご近所などの交友範囲を、少しでも長く維持し続けることが、健康年齢を伸ばすことにつながると思います。

 

◆家庭内におけるEC現象とは
 家庭内でも親子間の会話が減少してきていると言われています。「うちの子どもは何を考えているのか、閉じこもってパソコンばかりしている」という話を聞くこともありますし、「ある日突然家を出て独立し、どうしているのか何も連絡がない」ということもよくあります。「連絡がないことは元気の印、困ったら何か言ってくるはず」と楽観的に言っていられるのは、一世代前までの話かも知れません。
 FPとして接するご相談でも、ライフプラニングとしてお考えになる範囲は同居する核家族内に限定的で、肉親兄弟に関する話題やイベントがほとんどないことが多くあります。高齢化したご両親からは、「自分達の事は自分たちでやるから心配はいらない」と言われており、その結果、ライフプランは核家族を単位として考えるということになるわけです。ただ、そうは言いながらも、一旦相続のご相談を受けるような場合には、途端に相続人としての自分の権利主張が始まります。一方、親世代から贈与や相続に関する相談を受けた場合には、「子ども達と接するのは疲れる、なるべくなら問題を先送りしたい」とする傾向が見受けられることがあります。親子ともに、ご自分が聞きたい情報だけにしか耳を傾けようとしない、いわゆるEC現象に陥っていると言えるでしょう。

 

 このようなEC現象の解消のためには、世代間で異なる意見を交換し合い、相手の意見を尊重したうえで、お互いが自分の意見を修正していくことが大事な作業となるでしょう。最も近い存在であるはずの家族間で、民主主義について、もう一度考えても良いのではないでしょうか?遠く離れていても、親が元気なうちは子ども家族の手助けについて考え、やがて親の高齢化が進めば子どもが介助するすべを考える。この間の祖父母と両親とのやりとりを見ながら孫世代が育てば、家族の絆は世代間できっと受け継がれていくでしょう。

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)  山田 隆治 

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 この内容は2017年11月に相鉄不動産販売様のメルマガに掲載された内容を、同社のご了解を頂き掲載しています。

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