2016年5月07日 遺言書を書いたら、相続税が安くなる?

~遺言控除制度について

7月9日の日経新聞に自民党の「家族の絆を守る特命委員会」が「遺言に基づいて遺産を相続すれば、残された家族の相続税の負担を減らせる「遺言控除」の新設を要望する方針を固めた」ということが掲載されました。遺言による遺産分割を促し、相続をめぐるトラブルを防ぐ狙いでしょう。党税制調査会に提案して、2018年までの導入をめざすようです。このニュースをコラムの話題にしてみましょう。

(追記:平成28年度税制改正では当制度は見送られました)

◆遺言書を書いたら、基礎控除額が増える!?

 現在の相続税の基礎控除額は、「3000万 + 600万 × 法定相続人の数」です。たとえば、奥様とお子様お二人が法定相続人とすると4800万円までの相続財産であれば、相続税は課税されないということです。ところが、2015年1月に、従来の基礎控除額よりも40%の減額という相続税大増税になりました。今回導入が検討されている「遺言控除」は、基礎控除額に数百万円(金額は未定)加算する考えです。相続税の税率は、10%から55%までありますが、もし、30%程度の税率の人なら、この遺言控除で100万円程度(仮概算)相続税が減税されることになります。

 

◆政府はなぜ「遺言控除」という減税制度を導入するつもりなのか?

 相続税を大増税した直後に、減税制度を導入するというのは、考えてみるとおかしな話です。
でも、政府には導入しなくてはいけない大きな理由があったのです。その大きな理由とは、相続が起こっても、トラブルが起こることで、結局「争族」になり、遺産分割協議が整わず、結果、不動産の名義変更が整わない家庭が多くなり、空き家が全国に8百20万戸、2018年には1千80万戸に上ると予測されるからです。
「争族」になることで、父親の自宅を、誰が所有して住むかが決まらず、所有する賃貸アパートなども、修繕費を、誰がどこから出すかが決まらず、その状態で不動産がボロボロになっていきますので、もちろん借家人は見つからず、相続財産となった不動産は空き家になっていきます。政府は争族を防止するには、家族の絆を守る「遺言書」の普及が急務であるという観点から、遺言書を書くことへのインセンティブとして「遺言控除」の導入を考えたのです。

 

◆遺言書で争族を防止できるか?

 遺言書があれば、全て争族にならないとは決して言えませんが、遺言書さえあれば防げた争いは、沢山あります。遺言書は、争族予防のほかにも、相続手続きを長期化させないなど、かなり「使える」ツールと言えます。遺言書を遺してくれたおかげでトラブルにならず、遺言書のありがたさ、必要性を強く感じたという方がいる反面、遺言書を遺しておいてくれさえすれば、家族の絆も切れたりしなかったのにという事例は数多く見られるのです。

 

◆遺言書は必要ないという人の理由

 遺言書なんか必要ないと思っている人たちに理由を聞くと、我が家の家族は仲がよいから争族になるわけがない、争族になるような財産を持っていないからという理由をあげます。
 今、どんなに仲がよくても、将来争わないとも限りません。源頼朝と義経のように将来の関係は微妙です。また、家庭裁判所まで持ち込まれた相続争いのうち、財産総額1000万円以下の相続が約30%、遺産総額5000万円以下の方々が全体の74%を占めます。財産がないから争族にならないというのは間違いです。

 

◆遺言控除をきっかけに遺言書にチャレンジ

 遺言控除は、基礎控除が増額されるので、遺産総額が多い人達にはインセンティブになりますが、元々、基礎控除以下の人達には「遺言控除」という減税措置があっても、結局相続税を払うことはないわけですから、特段メリットがないように思えるかもしれません。しかし、FPの立場からいうと、基礎控除以下の人達こそ、一番遺言書が必要な人たちです。
 大多数の方は「遺言控除」のニュースがあってもなくても、遺言書の必要性について他人から聞くことはあっても、自分とは関係ないという理由で、何の対策もしないまま、次の世代に問題を残しています。コラムをきっかけに、自分も遺言書を書いておこうかと思う人が増えてくれば、争族は必ず減るのです。

 

◆遺言書はどうしたら作成できるのか?

 まずは自筆証書遺言を書いてみましょう。紙とペンと印鑑があれば手軽に作ることができます。月に一度、自筆証書遺言の書き方セミナーを開催していますので、興味のある方はKFSCまでご連絡ください。
 次に、自筆証書遺言を下書きに公正証書遺言を作られるのが良いでしょう。公正証書遺言書を作成する費用は5万円(財産額により変動)ほどかかりますが、相続が争族にならずに家族が仲良く暮らせると思えば安いはずです。

 

◆遺言書作成は親の義務

 誰でも、ご自分の相続で、親子、兄弟がいがみ合い、家族の絆が切れることを望んでいる人はいないはずです。子どもから親に対して、遺言書を書いてくれとは言いづらいものです。
親の義務として、遺言書を遺すことが円満相続につながります。「遺言控除」が成立するかどうかは今の時点では不明ですが、是非、この機会に遺言書を書いて家族の絆を強くしていきましょう。

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC) 青木 信三 AFP

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

 この内容は2015年9月に相鉄不動産販売様のメルマガに掲載された内容を、同社のご了解を頂き掲載しています。

 

【免責事項】
 かながわFP生活相談センター(KFSC)は、当コラムの内容については掲載時点で万全を期しておりますが、正確性・有用性・確実性・安全性その他いかなる保証もいたしません。当コラム執筆後の法律改正等により、内容が法律と異なってしまう場合がございます。どうぞご了承くださいますようお願いいたします。万一、当コラムのご利用により何らかの損害が発生した場合も、当社団法人は何ら責任を負うものではありません。