2022年7月1日、国税庁から、相続税や贈与税の土地等の課税評価額の基準となる2022年分の路線価及び評価倍率が公表されました。この「路線価」とは、相続税などを申告するときに参考とする不動産の評価方法です。毎年1月1日時点の全国約31万7千地点(継続地点)における標準宅地について公表されていますが、今年は前年比の変動率の平均は+0.5%(昨年▲0.5%)と、2年ぶりの上昇がみられました。首都圏の中古マンションの価格も高騰している今こそ、相続対策として、「自宅」をどうするのか、この機会に考えておきましょう。
◆ 相続の申告を忘れていた?知らなかった?は言い訳にならない
業務として、遺言作成を勧める際、よく聞かれるのは、「財産なんて、自宅と少しの預金くらいだから、相続対策なんてうちには必要ないでしょ。」もしくは「うちは相続税なんて支払うほどお金はそんなにないのよね。」という相続対策を否定する言葉です。ただ、多いのか少ないのかを判断するのは自分ではありません。勝手に、「相続税の支払なんて関係ないでしょう」と思わないことです。特に、自宅の評価額によっては、相続税の支払い義務が発生することもあります。その際、相続発生後の10か月以内に、現預金が少ないということがあれば、一括納付できないこともあるかもしれません。では、悪気もなく、知らないままで、相続税の申告をしないとなるとどうなるのでしょうか。参考まで、国税庁が公開している、実地調査の実績(*)から以下の資料をご紹介しておきます。相続税の実地調査は、資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等について実地調査を実施され、公表されている資料となります。この調査結果の中の言葉を引用しますが、「無申告事案は、申告納税制度の下で⾃発的に適正な申告・納税を⾏っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうものであることから、資料情報の収集・活⽤など無申告事案の把握のための取組を積極的に⾏い、的確な課税処理に努めています」(引用ここまで)。知らなかった、忘れていたという言い訳は通用しません。
◆ 不動産を相続対策に使ったことが悪手になった事例もある
専門家でもない普通の方が相続税等の申告に当たり、土地等についてご自分で時価を把握することは必ずしも容易ではありません。不動産や投資家の専門家の言われる通り、相続税対策をするのも仕方ありませんが、その相続対策がうまくいかなかった裁判事例があります。相続したマンションを「路線価方式」で財産評価し、相続税申告したところ、国税当局がこの評価は実勢価格と大幅に乖離(かいり)しており、著しく不適当であるとして、「総則6項」により更正処分を行いました。これを不服とする納税者(相続人)が訴訟を起こした「令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件」。この裁判は、首都圏のマンションを相続した際、相続税を「0円」と申告した相続人が、国に対し、追徴課税された約3億3000万円の取り消しを求めた裁判ですが、1審・2審を経て、令和4(2022)年4月19日、最高裁で、国税側の勝訴が確定となりました。これはとても極端な例となってしまいますが、不動産は相続対策になる方法であると同時に、今回は節税目的となる明確な基準があいまいなままであり、思い込みは危険だという教訓にもなっています。
◆ 自宅を持っている方が絶対知っておきたい小規模宅地の特例制度
個人が、評価額1000万円の土地を持っており、相続開始後、同居していた配偶者がそのまま土地を相続した場合、相続税の申告書に評価額「1000万円」でなく「200万円」と80%減額した評価額を書いていいという特例制度があります。この制度を「小規模宅地の特例」といい、相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人、または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用または居住の用に供されていた宅地等のうち一定のものがある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、下表の区分ごとにそれぞれに掲げる割合が減額されます。
この特例を利用するためのポイントは、条件を満たした親族であるという点です。先ほどは、配偶者を例に挙げましたが、不動産を相続(遺贈含む)する際には様々なパターンがあるでしょう。それまで同居していない子どももあるでしょうし、内縁の妻、もしくは再婚相手というケースもあるかもしれません。不動産のように「誰が」相続するかで評価が変わってくる財産は他にありませんし、この特例を利用できるかどうかによって、相続税額が大きく変わります。老人ホームに入居して、そのままになっていた自宅でも特例が適用されることがあります。ただ、この特例については効果が大きい一方で、細かい用件がいくつもあります。相続税額が0円になったとしても、特例を適用するためには相続税の申告をすることが必須となります。
今年の路線価が公表され、自宅の評価額が上昇した方もいるでしょう。不動産は財産であると同時に、円滑に相続させることが難しい財産でもあります。ぜひこれを機会に相続対策を考えていただきたいものです。
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一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC) 當舎 緑 CFP® 社会保険労務士 行政書士
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