2021年9月15日 相続手続きを円滑、迅速に進める遺産分割協議書の作成

 

 遺産分割協議が成立し、協議書の作成が行われたもののその後の分割事務手続きが長引き、遺産取得が速やかにできないことから相続人の不満が高まって相続人間の関係悪化につながったケースがありました。分割協議書の形式、分割方法を一工夫することにより、分割事務手続きを円滑、迅速に進めることができます。

 

◆ 相続人が多い、また遠隔地に住んでいる等の場合の分割協議書の作成

  • 相続人が多い、また遠隔地に住んでいる等の場合、相続人全員が一堂に会し、1通の遺産分割協議書に連記形式で署名、捺印することが難しくなります。一堂に会せないときには、その場に欠席の相続人宛に郵送で分割協議書を送付し、署名、捺印のうえ返送してもらう、これの繰り返しになりますので、全員の署名、捺印の終了は数か月以上先になってしまうことがあります。
  • 分割協議書は、単名形式(同文の協議書を相続人の数だけ作成し、署名、捺印を受けて全員分を綴じ込みする)にすることができます。このようにすれば、相続人が遠隔地に住んでいても一斉に送付し、返送をしてもらえば良く、送付と返送の繰り返しが避けられるために早期に協議書を整えることができます。なお、この方式の利点は、相続人の関係が希薄の場合にも効果的でした。

 

◆ 遺産を分離して複数の分割協議書を作成

  • 遺産が多く、その種類も多岐に亘っている場合、調査終了に時間がかかり分割協議が相当先に延びることがあります。この場合、不動産の取得者を先行して決定し、不動産のみの協議書を作成、登記を行うことが必要です。
  • 従前は、相続登記の第三者対抗要件の点からは緊急性はなかったのですが、先の民法改正により、法定相続分を超える部分の承継には登記がなければ第三者に対抗できない、と変更されましたので、速やかに登記する必要が出てきました。(注)2021年4月 相続登記義務化の法律が成立しました。(2024年度までに施行予定)
  • 分割協議書は、すべての遺産を網羅している必要はなく、1件の相続案件に遺産を分離して数通の分割協議書を作成しても構いません。遺産の中のある財産について急ぎ名義変更、換価処分などの手続きをしたいときには当該財産だけ記載の分割協議書を作成し、手続き先に提示すれば良いのです。その副次的効果として、手続き先には、対象財産以外の遺産については知られなくて済み、営業セールスから逃れられる利点があります。 

 

◆ 相続費用などを一人の相続人に負担させる、また、金融資産の換価処分代金を相続人の一人に取得させ、他の相続人には取得の相続人から定額の金銭を支払うとする分割協議書の作成

  • 遺産の金融資産全部を換価処分した中から「葬儀費用、相続手続きにかかる費用、未払い公租公課、その他相続債務の一切」(以下費用等)を差し引き、その残額を各相続人に割合により取得させる、とした分割方法を見かけます。この場合、費用等の金額が確定しませんと各相続人への最終の配分額が確定できず、相続手続きが長引く原因になります。費用等を相続人の一人が負担する形にできれば、金融資産の換価処分が終わり次第、費用等の金額確定を待たなくとも他の相続人への金銭の配分ができ、早期の終了につなげられます。
  • また、金融資産の換価処分代金を相続人一人が取得し、他の相続人には取得の相続人から定額の金銭を支払う方法にすれば、他の相続人への金銭配分の計算は省略でき、分配手続きが容易になります。

(この場合の分割協議への記載は、次のようになります。)

「相続人甲は金融資産の換価処分代金の全額を取得する。同人はその代償として相続人乙及び相続人丙に対して金銭○○万円を各支払う」

(注)代償の用語を使用していますが、「代償分割」とは異なります。

この分割方法、協議書表現で甲から乙、丙への贈与認定の問題は発生しません。

 

  • 以上記述の費用負担、金銭配分の方法については、当然、各相続人の合意が前提になりますが、筆者の経験では相続人の理解も得やすく、早期に遺産を取得したい相続人の期待にも応えることができる分割方法と考えています。

 

◆ まとめ

 

 遺産分割に際して、相続人は多少の不満を抑えて分割協議書に署名していることが少なくありません。そのため、相続手続きを長引きかせないことが重要です。

協議書作成にあたっては、相続事務手続きが円滑、迅速に進められるかを考えてください。

 

 

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