2023年4月15日 株式投資の見方・考え方~これからの株式投資をどう考えるか?

皆様の中で株式投資をされている方(株式投資信託を含む)は、どのようなスタンスで投資に臨まれているでしょうか?最近では、メルマガやユーチューブ等を参考にしている方も多いようです。これらを参考に「FIRE(株式運用等で資産を増やして経済的自立を実現し早期退職を図る)」を考えている方もおられるかも知れません。しかし、安易に他人の解説や意見を盲信せず、自分の頭で冷静に考えて判断することが重要です(以下の筆者の見解についても同様です)。今回はそのような観点で考えてみたいと思います。

 

◆ 2022年、日本株は相対的に堅調だったのか?

 欧米を中心とするインフレ対策による金融引き締め政策(政策金利の引き上げ等)やロシアによるウクライナ侵攻等があって、2022年は株式市場にとって全体としては厳しい1年となりました。でも、「日本株は相対的には堅調だったし、今年も堅調な推移が予想される」、と主張される方(証券系の株式アナリストを含めて)をしばしばお見掛けします。将来は分りませんが、これまでについて、これは正しい分析なのでしょうか? 図1をご覧ください。 

 

2022/1末を100として各月の終値の推移を示したものです。確かに円ベースの日経平均とS&P500(米国株式の代表的指標の1つ;ドルベース)の推移を比較すると昨月(2023/3)末までは、日経平均が優位に推移しているように見えます。しかし、これはこの間に急速な円安が進んだための「為替のマジック」なのです。両指標を同一通貨ベース(図1では米ドルベース)で比較してみるとほとんど同じような推移を示していて、むしろ、少しだけですがS&P500の方が優位に推移していることが分ります。目的によって異なりますが、通常、投資家目線では通貨を合わせて比較するのが適切なのです。このへんの理屈をよく知っているはずの金融関係者が円ベースの日経平均と米ドルベースのS&P500の推移を示して、「日本株の方が魅力的」と勧めてきたら、これは要注意と思ってください。

 

◆ インデックス投信による長期積立投資なら安心なのか?

 株価の将来の変動を見極めるのは極めて難しいのですが、良く言われるのは、世界経済は長期的には右肩上がりに成長し、企業業績も全体としてはこれに伴って成長するため、長期投資をすればリターンはプラスになる可能性が高い、ということです。筆者も基本的にはこれに同意で、特に世界の株式に分散投資するファンド(投資信託)に長期積立投資をすれば、高い確率で金融資産を増やすことができると考えています。しかし、注意すべきは、あくまで過去の推移を前提にした「可能性」であって、絶対ではない、ということです。図2は日経平均株価(現実には連動するファンド)に直近30年間(2023年3/末まで)毎月同額(ここでは100単位)の積立投資をした場合の積立額総額と積立累計評価額の推移を示したもので、最初の20年間はあまり成果が得られていませんが、最終的には積立累計評価額は積立額総額の2倍近くになっています。

一方で図3を見てください。30年間を1979/3~2009/2末に変えて、積立額総額と積立累計評価額の推移を示したもので、最初の10年間は極めて高い成果が出ていますが、最終的には47%ほど毀損しています。通常、30年ほども積立投資すれば、多くの場合リターンはプラスになるのですが、「絶対ではない」ということです。以上は、過去の事例を示したものですが、これから先はどうなるのでしょう?

◆ 今後の株価動向をどう見るか? 

 フランスの経済学者であるトマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」によれば(世界の約20カ国について、過去200年以上のデータを15年掛けて分析)、国や時代によって若干のバラツキはあるものの、株価の上昇率(正確には不動産等も含めている)は平均で年に4~5%程度とされています。一方、「my INDEX」というサイト(https://myindex.jp/) によれば、2023年2月までの20年の日本株と米国株の年率平均リターンは、それぞれ、6.6%、11.0%となっています。つまり、ここ20年は200年トレンドと比較すると株価上昇率は極めて高かったと考えられます。以下はあくまで筆者の個人的認識に過ぎませんが、今年度も、今後しばらくも、これまでのような高いリターンは得られないのではないでないかと考えています。あくまで個人的見方ですので、そのまま鵜呑みにせず、是非皆様ご自身で考え、判断ください。

 

① ここ20~30年、世界の株価が総じて順調に推移してきたのは、ベルリンの壁崩壊(1989年)~東西ドイツの統一(1990年)やソビエト連邦の崩壊(1988年~1991年)を契機とした世界経済のグローバル化の流れで、世界が主義の違いを超えて経済優先で進んできたことが大きな要因となっている。これによって、短期的には色々な危機に遭遇して下落しながらも、自由競争の下に世界で活躍する企業が世界の株価を牽引し、全体としては右肩上がりで大きく成長してきた(図4参照*)。

「MSCI ACWI」は「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」で、世界の株式を対象とした株価指数。世界の先進国と新興国の株式の総合投資収益を各市場の時価総額比率で加重平均して指数化したものとなっており、世界の株式の時価総額の約85%をカバーしている。

② ①の流れを受けて、一部の証券系アナリスト等の中には今年度の株価見通しについて楽観論も多く見受けられるが、短期的に見ても、欧米のインフレ対策のための金融引き締めは企業業績・株価に総じてマイナスの影響となるのは必至と考えられる。加えて、中央銀行には、シリコンバレー銀行破綻に端を発した金融不安解消のための施策とのバランスを見ながらの舵取りが必要となり、政策金利の見通し判断も難しくなってきて、企業への逆風が長引く懸念も出てきた。

 

③ 加えて、ロシアのウクライナ侵攻や、習近平政権の独裁体制確立による台湾や海路侵攻の懸念、先端技術を中心とした米中摩擦等で、世界は経済中心から政治中心に逆流する気配を見せている。ロシアや中国だけを非難するのが適切かどうかは置いておいて、今のところ短期収束は難しそうで、世界経済の分断が進むと、資源、食料、素材等の制約・高騰、流通の制約を通じて、企業の経営戦略・戦術や我々の生活にも長期にわたるマイナスの影響が懸念される。後で振り返ると、世界の政治・経済・金融のパラダイム(枠組み)転換が現在進行しているということになるかも知れない。

 

④ まとめると、ここ20~30年は総じて株価が極めて堅調に推移してきたが、ここ1,2年は勿論、その後回復に向うとしても、これまでのような高率での株価上昇は難しくなるのではないかと思われる。インデックスファンドに長期投資すれば「ほったらかし」でも儲かるという時代ではなくなった、とまでは言わないが、利益率はこれまでより下がることを覚悟した方が良さそうだ。自分の頭で考えてタイミングを図った個別株投資をするか、信頼できるファンドマネージャーに託してアクティブファンドで運用する、という選択肢も考えて良いように思う。

 

◆ まとめ 

 株式の動きや見通しについて、我々は、テレビや雑誌、ユーチューブ等、色々な媒体でアクセスできるようになりました。便利な時代になったのは確かですが、一方で、自分の視点をきちんと持っていないと、情報に振り回される懸念もあります。ここまでの20~30年、世界は経済中心に回って、株価も全体としては極めて急ピッチに上昇してきました。問題はこれからですが、金融引き締めによる一時的な停滞を乗り越えれば、また、これまでのような右肩上がりの成長に戻ると安易に考えるのは危険だと考えます。勿論、政治・経済・金融・社会は様々な要因の複合で動きますので、単純に今後を占うことはできません。予想外の好展開で、また右肩上がりの経済や株価の成長が復活するかも知れません。ただ、ウォーレン・バフェット氏も、株式運用の要諦は儲けることより「損をしないこと」で、最悪のケースを過小評価しないことが重要と言っています。筆者も肝に銘じたいと思っています。皆様はご自身の目、耳、頭で、今後の展開をよく考えて頂き、投資行動にも反映頂きたいと思います。

 もし、インデックスファンドによる積立投資だけに頼らず自分でタイミングを計って投資してみようという方には、米国の著名な投資家だったジョン・テンプルトン氏の言葉が参考になると思います。

相場は絶望の中に生まれ、懐疑のうちに育ち、楽観の中で成熟し、熱狂とともに終わりを迎える」人は行動心理学的には、絶望的状況で「売り」、楽観・熱狂的状況で「買い」の行動を起こしやすいからです。

 皆様のご健闘とご健勝をお祈りいたします。

 なお、繰り返しになりますが、以上は筆者の個人的見解です。くれぐれも、投資判断は自己責任でお願いします。

 

 -------------------------------------

 「 生活のお役立ち情報」 トップページ

 ------------------------------------- 

   

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)  鈴木 康文

 専門分野:

 金融資産運用設計、ライフ・リタイアメントプランニング

   主な資格:

   CFP®・1級FP技能士

【免責事項】
 かながわFP生活相談センター(KFSC)は、当コラムの内容については掲載時点で万全を期しておりますが、正確性・有用性・確実性・安全性その他いかなる保証もいたしません。当コラム執筆後の法律改正等により、内容が法律と異なってしまう場合がございます。どうぞご了承くださいますようお願いいたします。万一、当コラムのご利用により何らかの損害が発生した場合も、当社団法人は何ら責任を負うものではありません。