2022年2月15日 何故、暦年贈与が無くなる話がでてるの?

  

 近年噂になっている「暦年贈与ができなくなる!」とはどういうことなのか。

 相続税対策を検討する上で生前贈与での対策は外せません。昔ながらの富裕層はコツコツと地道な暦年による生前贈与をしている傾向が見られます。

国はこの状況を把握しており、何とかしようと考えているようです。令和4年度の税制改正大綱では改正までは進みませんでしたが、これからどうなるのでしょう。

 

◆ 相続税と贈与税の関係

 「贈与税は相続税の補完税」この言葉は贈与税の立ち位置をはっきり表しています。

 税法には所得税法、法人税法、消費税法等の様々な法律がありますが、贈与税法という法律はありません。贈与税は相続税法の中で、相続税法第○○条という様に規定されています。

 相続が発生し、その遺産に関する権利者は、民法上の相続人かそれ以外では遺言等によって遺贈された人に限られます。そこで、本来は相続開始前の財産の移転により相続税の対象から外れるのを防ぐため贈与税を制定し、相続税より高率な税率を設定することにより生前の贈与を牽制もしています。

 

◆ 国が改正に進みたい理由

 相続税法は明治37年の日露戦争の戦費調達のために創設された伝統のある法律で、他の税法に比べると改正も少なく、古いまま今に至っている部分の多い税法です。

 前述の贈与税の建付けから考えると、理論的には相続人等に対する生前贈与はすべて相続財産に含めることが正当と国は考えていると思われます。しかし、実際はあまりにも古い贈与まで管理しきれなかったというのが実情でしょう。

 ちなみに日本では相続開始前3年間の暦年贈与を相続財産に含めることとなっていますが、諸外国は、イギリス7年、ドイツ10年、フランス15年、アメリカはなんと無期限です。

 

◆ 改正の可能性

 令和3年度の税制改正大綱で「本格的な検討を進める」と公表されてから、様々な噂や予想やその影響が語られてきました。

 例年公表される税制改正大綱はおおよそ100頁ほどの資料ですが、令和3年度大綱の18頁から19頁のあたりにその記載があります。

 令和4年度大綱は改正に至りませんでしたが、10頁から11頁のあたりで「不断の見直しを行っていく必要がある」と締めくくっています。

 行政側の管理上の問題がデジタル技術の進歩により解消する方向に向かっているのは間違いないところですし、平成15年に創設された相続時精算課税という生前贈与の規定は適用した贈与財産のすべてを相続財産に含めることになっているので、実際に行政側は管理の問題を既にクリアしているのかもしれません。

 となると、後はマイナンバー制度がどこまで個人資産の移転を把握できるようになるかというタイミング待ちでしょうか。

 

◆ 具体的に検討されていると思われる改正の項目

①暦年贈与の相続財産への加算対象期間が3年から10年や15年への延長

②贈与税が無くなって相続税への一体化

 税法は一方通行的な強制力のある法律なので、国民のすべてに負担増となる改正は段階を踏んでくると思われます。とすると、現実的には加算対象期間の延長からかなと思います。

 

◆ 改正前にできること

 租税特別措置法の非課税規定や相続時精算課税のようにダイナミックに節税できそうなものは、自分の財産を国にあからさまにしている意味もあるので、富裕層は案外と地道に暦年贈与を積み重ねていたりします。

 仮に暦年贈与関係の改正があったとしても、改正後にどこまで遡って適用するかは法律の予見可能性の面からは大きな議論の余地があると思われます。

とりあえず暦年贈与に関しては早く始めるに越したことは無いと言えるのではないでしょうか。

 

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)   山内 晃 CFP®・税理士

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献するこ

とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

 

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