2021年4月1日 信託の活用で、ワンランク上の相続対策を実現しよう!

 

1.はじめに

高齢者の財産管理対策や相続対策に「信託」の活用が進んでいます。相続対策に「信託」を活用することで、遺言等の民法上の対策ではできない効果が実現するのです。

 

2.相続対策における「信託」の特色

信託は財産管理・承継のための制度で、その特色は以下です。

(1)「委託者(財産の所有者)」が「受託者」に対して、「信託財産」を「受益者」のために管理・運用し、「受益者」に給付することを託す制度。「委託者=受益者」の場合が多い。

(例:アパートオーナーが息子にアパートを管理・運用させて、生活費を受け取る。)

(2)信託財産はお金で見積もれるもの(金銭、有価証券、不動産、特許権等)。

(3)信託財産の所有名義は「受託者」に移転し、外見上は「受託者」が自己の所有財産として管理運用していく。不動産登記も所有権移転する。

(4)「委託者」の相続に際し、信託財産は「委託者の相続財産」ではないので、遺産分割手続きが不要(信託契約等の規定に従う)。

(5)民法では、「遺言でA⇒B⇒Cと承継させること(跡継ぎ遺贈)」は困難とされているが、信託では受益権の形でA⇒B⇒Cと取得させることが可能。

 

3.自宅をBさんに確実に承継させたい場合

Aさんは、遺言でBさんに自宅を相続させる(遺贈する)ことができます。ただし、遺言では以下のリスクがあります。

(1)Aさんの死亡によりBさんが自宅の移転登記を行う前に、Aさん・相続人の債権者が自宅を差し押さえると、Bさんはこれに勝てない。

(2)相続人XがAさんの遺言に不満を持ち、単独で共同相続登記(各法定相続分での登記)をしたのち、自分の名義分を転売して購入者Yが移転登記してしまうと、Bさんはこれに勝てない。

(3) 相続人XがAさんの遺言に対して遺言無効訴訟を提起したら、この決着がつくまでBさんは自宅を取得できない。

 

これに対し、信託の場合は所有権(甲区)が受託者に移転登記されて受託者が管理しているので、Aさん・相続人の債権者、相続に不満を持つ相続人Xは手出しができません。そのなかで、Aさん(委託者兼受益者)の死亡により信託が終了し、受託者が信託契約の指示に基づきBさん(帰属権利者)に自宅を交付・移転登記するのが一般的です。

 

4.先祖伝来の賃貸不動産を、配偶者Cさんの次に甥Yさんに承継させたい場合

Aさんは遺言代用信託や受益者連続型信託を活用することでこの目的を達成することができます。

たとえば、Aさん(委託者兼第1受益者)は信頼できる受託者に以下の内容の遺言代用信託を設定します。

(1)Aさんは、「第1受益者」として賃貸不動産(信託財産)の賃料収入から必要諸経費を控除した金銭を受託者から受領して生活費に充てていく。

(2)Aさんの死亡後は、配偶者Cさん(第2受益者)が同様に金銭を受託者から受領して生活費に充てていく。

(3)Cさんが死亡しても、賃貸不動産(信託財産)の名義は受託者であって、Cさんの相続財産ではない。

(4)Cさんの死亡により、信託契約に基づき遺言代用信託が終了し、残余財産である賃貸不動産が受託者から甥Yさん(帰属権利者)に引き渡され、移転登記を受ける。

 

5.おわりに

上記事例のように、信託の活用によって民法制度(遺言等)では困難な承継対策が確実に実施できます。

ただし、信託は万能ではなく、皆様それぞれの状況によって適用が困難な場合もありますし、適切な受託者が見つからない場合も多いでしょう。

私ども(一社)かながわFP生活相談センターでは、信託を活用した相続・承継対策の実行を支援しております。

 

 

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)   小林 徹 CFP®

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献するこ

とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

 

【免責事項】
 かながわFP生活相談センター(KFSC)は、当コラムの内容については掲載時点で万全を期しておりますが、正確性・有用性・確実性・安全性その他いかなる保証もいたしません。当コラム執筆後の法律改正等により、内容が法律と異なってしまう場合がございます。どうぞご了承くださいますようお願いいたします。万一、当コラムのご利用により何らかの損害が発生した場合も、当社団法人は何ら責任を負うものではありません。