2021年2月15日 あなたは税務署の夢を見るか

 先日、映画の『男はつらいよ』シリーズの再放送をみていたところ、ドラマの主要人物であるタコ社長が「俺はいつも税務署の夢ばかりみるよ!」と愚痴るくだりがありました。

 タコ社長ってそんなに儲かってるの?とも思いましたが、恐らくそんなはずはなく、もちろんいい夢のはずもありません。

 ここには中小企業の社長等を苦しめる税務署の特定のイメージがあるのだと思います。

 

人はなぜ税金を払いたくないのか 

 国民は納税の義務を負い(憲法30条)、国は国民に税を課し国民から税を徴収する権利を有しています。

国民は税金を支払うことにより何か直接的な対価を得ることは無く、国も税を徴した後に何かを直接的に引き渡すこともありません。

租税の権利義務関係は、法により債権債務が生じる性質のもので、価値の交換取引に基づく自由な経済活動とは性質が違います。

 国民の財産権は憲法によっても守られていますが、税金を支払うということは自分の財産が一方的に減少することになり、場合によっては国家権力により財産権を侵されてしまう危険性もはらみます。 

 

法律が制限している先は国?(租税法律主義)

 税金に関して、国民は義務を負い国は権利を有しているということは、租税に関する法律のありようによっては国民の財産権が不安定になる可能性があるということを意味します。それは憲法に反します。

 国は法律を逸脱して税金を徴収することはできず、すべて法律の枠内でのみ権利を行使していきます。これが租税法律主義で、国民の財産権はこれにより保障されているとも言えます。

 ちなみに法律を決めているのは、地方の条例等は別にして、立法府である国会です。

 

申告するかしないかは自分で決められるの?(申告納税制度)

 国民は義務を負い国は権利を有している中で、国が強制的に徴税する分野はごく少なく、主に国民の側からの自己申告による制度となっています。納税関係のスタートとしては、権利を有している国が動かず、義務を負っている国民が自発的に申告してくれることを国が期待して待っているという構図となっています。

 しかし、いつまでも申告すべき人が申告しないままでいた場合、国は調査権を行使して強制的に調べ、納税を拒む場合は差押えの処分までして徴税を進める可能性も出てきます。

 税務署から声がかかるまで申告しないという考えは、勝ち目のない勝負を国に対して挑んでいるようなものです。

 

人は単なる動物ではない

 自己の利益の追求の動機は、本来、生理的、本能的、無意識的なものであり、人以外の動植物にも自然に備わっているものですが、私たちが人間であることの存在理由は少し異なっていると私は考えます。

 人間の目指すべき合理性の根源を、経済学者のアダム・スミスは「道徳性・公正さ」、JSミルは「人格的な人間による経済活動」、マーシャルは「経済騎士道」に置いていて、その枠内で自己の利益を追求すべきとしていたようです。

 世のエコノミストのアイドル達も案外理性的ですよね。

 

税務署の夢なんか見たくない

 国は法律の範囲内でしか税金を課さない。国は強制的に徴税しない。とは言っても税務署に対してポジティブな感情を持っている人はほとんどいないでしょう。嫌な仕事を引き受けてくれているという意味では感謝している人はいるかもしれません。

 ネガティブな気持ちの大半は人間の理性以外の部分が動機になっています。

 自分が十分に理性的だと思っている人が税務署の夢を見るとしたら、意図して計画的に隠している何かがあるからかもしれません。

 もしそうでなければ、単なる租税に関する知識不足なだけですので、このコラムを読んだ後は税務署の夢を見ることはなくなるはずです。

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)   山内 晃 CFP・税理士

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献するこ

とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

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