2020年9月15日  定年後も働くと年金がカットされる? ~在職老齢年金というちょっと変な年金の話~

 

 人生100年時代と言われ、60歳を過ぎても働くことがあたりまえになってきました。会社員として60歳以降も働き続けると、「年金を払いながら年金を受け取る」という、なんだかおかしなことになります。

もうすぐ60歳になる方から、「働いている間は年金がカットされると聞いたが本当か?」、「年金をもらえる年になったら仕事をやめた方が良いのか?」という質問をよく頂きます。今回は働きながら受け取る場合の年金について、今年改正された年金制度を含め分かり易くお伝えします。

 

◆在職老齢年金とは

 「60歳以上の方で厚生年金に加入し、一定以上の賃金を得ている方には、年金給付を我慢してもらおう」という考え方から、老齢厚生年金の全部または一部を停止する仕組みがあります。これを「在職老齢年金」といいます。

この在職老齢年金制度は、一生懸命働いて給料が増えても、それに比例して年金が減り、実質の収入があまり増えないため、働く意欲を阻害すると言われています。

 特に最近は65歳まで働く方も増え、60歳から64歳まで受け取る特別支給の老齢厚生年金との兼ね合いで働き方を調整する方が多くなっています。2019年厚労省の在職老齢年金の意識調査によると、年金が減らないように就業時間を調整して、収入を一定額に調整しながら働くとの回答が、60歳~64歳で6割、65歳~69歳で4割を占めています。特に60歳~64歳の6割の方が「就業時間を制限して働いている」、ということから在職老齢年金制度の「働く意欲を阻害する」という弊害がよく表れています。

 

◆60歳~64歳の在職老齢年金

 現在の厚生年金制度は、支給開始年齢を65歳に段階的に引き上げる経過措置として、特別支給の老齢厚生年金が支給されます。

  ※ 厚生年金の支給開始年齢の段階的引上げが完了する2025年度(女性は2030年度)以降、対象者はいなくなります。

 例えば、特別支給の老齢厚生年金が10万円と仮定した場合、賃金と年金の合計額は図1のようになります。賃金が18万円(年金との合計28万円)までは年金はカットされません。賃金が18万円を超えると賃金の増加分の1/2が年金額からカットされ、38万円を超えると年金は全額停止となります。

 

図1 60歳~65歳までの在職老齢年金 (日本年金機構資料より著者作成)

65歳になるまでの在職老齢年金の正確な計算は、以下の表1を参照ください。

表1 65歳になるまでの在職老齢年金の計算方法 (日本年金機構資料より著者作成)

条件

カットされる年金額

年金+賃金 28万円以下

カット無し

賃金  47万円以下

 

年金

28万円以下

(賃金+年金― 28万円)÷2

28万円超

賃金 ÷ 2

賃金  47円を超える

 

年金

28万円以下

47万円+年金―28万円)÷2+(賃金-47万円)

28万円超

47万円÷2+(賃金-47万円)

※ 年金:特別支給の老齢厚生年金の月額
  賃金:(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
    計算の結果、カットされる額が年金額以上になる場合は全額停止となります。

 

◆令和2年 国民年金法等の改正
 
今年(令和2年)、年金の繰り下げが75歳まで可能になる等多くの変更が行われました。その中で特に在職老齢年金に関する変更をご紹介します。

 

1. 在職老齢年金の支給停止基準緩和

 今回の年金法改正では、60~64歳に支給される在職老齢年金について、年金がカットされる基準が28万円から47万円に緩和されます。このことにより、60代前半の人も就労時間を気にせずに働けるようになりました。

 なお、65歳以上の在職老齢年金制度については、現行の基準47万円の変更はありません。そのため、60歳~64歳と65歳からの在職老齢年金の計算ルールが共通になります。 

 この改正は、令和4年4月1日から適用されます。

 

2. 在職老齢年金の在職定時改定

 65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、年金額を毎年10月に改定し、それまでに納めた保険料を年金額に反映する「在職定時改定」という制度ができました。

 今回の在職定時改定の導入により、仕事を継続したことの効果を、退職を待たずに年金額に反映することで、在職老齢年金が毎年増えることになります。但し、賃金と年金の合計が47万円を超える場合は、年金の一部または全額が停止されますのでご注意ください。

この改正は、令和4年4月1日から適用されます。

 

図2 在職定時改定制度      出典:厚生労働省年金局資料

 

◆在職老齢年金をカットされない方法

 どうしても年金を減らされたくないという方には、以下のような方法が考えられます。

 

1. フリーランスや個人事業主として働く

会社員としてではなく、個人事業主やフリーランスとして働くという方法があります。厚生年金に加入しないため、在職老齢年金扱いにならず年金は減額されません。

 

2. 働く時間を調整する

 就業時間を調整して賃金と年金の合計額が、65歳以下は28万円(注1)、65歳以上は47万円を超えないように働くという方法があります。この方法は、年金は減額されませんが収入も低く抑えられることになります。

 

注1:2022年4月1日からは47万円が上限となります。

 

 

◆まとめ

 現在60歳前後で、どのように働くべきかを悩んでいる方も多いと思います。今回は在職老齢年金についてご説明しましたが、単純に年金収入だけで損か得かという判断だけでなく、自分のやりたい仕事を頑張ることも大切です。さらに65歳を過ぎても健康で働き続けられることはとても幸せなことです。

 

 最後に、年金制度は在職老齢年金以外にも、加給年金や振替加算、遺族年金等々非常に複雑です。疑問や不明点は、お近くの年金事務所や年金制度に詳しい専門家にご相談ください。

 

 

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)  植田 周司   CFP®

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献するこ

とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

  

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