1.書き方のポイント
遺言はその法的効力が大きいことから、自筆証書遺言には以下の要件があり、要件違反は無効です。
①全文を自書
全文を自ら書く必要があります。ただし、2019年1月13日以後に作成された遺言では、一体のものとして添付する財産目録はパソコンでの作成やコピー等でも構いません。ただし、遺言者本人の作成であることを明確にするために、各葉に署名押印が必要です。
②日付を自書
同じ遺産に関する複数の遺言があるときは、新しい遺言が有効で古い遺言が撤回されたことになります。したがって、作成年月日を特定することが必要で(西暦・和暦のいずれの記載でも可)、「吉日」の記載は不可です。
③署名押印
氏名を筆記し押印します。この印鑑は三文判でもかまいませんが、花押は不可です。
④用紙・書き方
特に規定はなく、便箋等が多いでしょう。百貨店の包装紙の裏面に遺言を書かれた方もおられました。縦書き・横書きの選択も自由です。
⑤封書
特に規定はなく、開封でもかまいません。
2.自筆証書遺言と公正証書遺言の比較
自筆証書遺言作成の統計はありませんが、一昨年の遺言書検認件数(ほとんどが自筆証書遺言)は17,487件で上昇傾向です。また、昨年の公正証書遺言作成件数は113,137件と過去最高でした。
自筆証書遺言と公正証書遺言の概要、長所・短所は以下のとおりです。
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自筆証書遺言 |
公正証書遺言 |
概要 |
全文、日付、氏名をすべて自書し、押印する 遺言書保管制度が創設(2020.7.10~) |
公証人の前で2人以上の証人立会の下、遺言内容を公証人に口授する 原本が公証役場に保管される |
長所 |
誰にも知られず、自分だけで作成できる 費用がかからない 遺言の撤回や変更が容易 |
公証人が作成するので、形式不備で無効になることがない 紛失、隠匿、改ざん等のリスクがない 検認が不要=早期に執行に着手できる |
短所 |
紛失、隠匿、改ざん等のリスクがある* 形式不備で遺言が無効になるリスクがある* 検認が必要=執行着手に時間がかかる* 記載内容が不明確な場合に執行不能リスクがある |
証人の立会が必要 公正証書作成費用がかかる 遺言内容が公証役場職員や立会証人に知られる |
*遺言書保管制度により、短所が解消する事項。
3.遺言書の保管と自筆証書遺言保管制度
自筆証書遺言は世の中に1枚しか存在しないため、これが紛失したら折角の苦労が水の泡になります。また、一部相続人による隠匿や改ざん等のリスクもあります。このため、信頼できる人に保管を依頼する等の注意が必要です。
これに対し、2020年7月10日以後は法務局で自筆証書遺言を保管する制度が開始されることで紛失・隠匿・改ざん等のリスクがなくなると共に、保管時に法務局が自筆証書遺言の要件(前記1.①②③)を満たしていることを確認するので、形式不備による無効リスクもなくなります。更に、保管された遺言の場合は検認が不要で、早期に遺言執行に着手できます。これによって、上記2.表の「自筆証書遺言:短所」の*部分の短所が解消します。
ただし、法律の専門家が作成する訳ではないので、記載内容が不明確な場合に遺言執行できなくなるリスクが残ります。
4.遺言執行者の指定
せっかく遺言を作成しておいても、誰かがその内容を実現しないと遺言が「絵に描いた餅」になってしまいます。この遺言内容の実現者が遺言執行者で、遺言で指定できます。ただし、確実な遺言執行を期するためには、遺言で指定するだけではなく、遺言執行者に押念しておくことが大事です。
更に、遺言執行時に法務局や金融機関でその権限をめぐってトラブルになることがあるため、遺言文中に「遺言執行者は何ができるか(遺言執行者権限)」を規定しておくべきでしょう。
一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC) 小林 徹 CFP®
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