2018年7月1日「信託」を活用した不動産の管理・承継とは

 

 最近、「民事(家族)信託」の話をよく耳にしますが、「信託」って何かご存知でしょうか?

 

 「信託」とは、財産管理・承継の制度で、日本では、既に大正時代から信託法等が施行されています。そして、平成18年の信託法改正によって、法律の使い勝手がよくなり、「民法でできないことが信託でできる!」ことから活用が進んでいます。今回は、この信託を活用した不動産の管理等についてお話しましょう。

 

◆信託のあらまし
 信託は、財産の所有者(委託者)が、「自分の財産を自分または他人(受益者)のために管理運用し、給付して欲しい」と受託者に依頼し、受託者がその財産の引渡しを受けて管理、運用し、受益者に給付していく制度です。
 例えば、賃貸アパートのオーナー(委託者兼受益者)が息子(受託者)に「自分に代わってアパートを管理し、家賃から必要諸経費を差し引いて自分に給付してくれ。」と依頼(信託契約)します。
 特定贈与信託では、親(委託者)が信託銀行等(受託者)に「障害を持つ子(受益者)が亡くなるまで療養費・生活費を給付してくれ。」と依頼しますし、自分の死後の可愛いペットの世話を依頼することも可能です。

 

◆信託の特徴
 信託を設定すると、「信託財産の所有名義が受託者に移る」点が大きな特徴で、受託者は信託目的に沿いつつ、外見上は「所有者」として管理、運用していくことになります。そして、たとえ委託者が死亡しても、信託の規定に基づき受益者への給付を続けることができます。これに対し、委任制度や成年後見制度では、委任者・受任者や被後見人の死亡によって、委任や成年後見が終了しますよね。
 また、これも大きな特徴と言えますが、たとえ受託者が破綻しても信託財産(受託者の名義になっている)は守られ、差押等の対象にはなりません(当然、受託者の固有財産は差し押さえられます)。

 

◆信託を活用した不動産の管理
 アパートの賃貸管理以外に、高齢者が新たに賃貸アパート事業に取り組む場合、入院や認知症、死亡のために「検討~工事発注~賃貸管理委託」という作業の流れが突然中断してしまうリスクがありますし、金融機関も融資に応じづらい側面があります。
 しかし、信託を活用すれば、敷地の所有権が受託者に移転し、受託者が金融機関から融資を受け、受託者名義で工事発注や賃貸管理委託を行うので安心です。

 

 

◆信託を活用した財産の承継
 お子様のおられないご夫婦で、夫に先祖伝来の財産がある場合、夫に「自分が亡くなったら、妻の老後設計のために全財産を活用して欲しいが、妻が亡くなったら、先祖伝来の財産は私の甥に戻して欲しい。」という希望があっても、民法でこの希望を満たすことは困難です。遺言で「全財産を妻に相続させる」ことは可能ですが、その先は妻の意向によりけりです。
 しかし、遺言代用信託を活用して、第1受益者=夫、第2(夫死亡後)受益者=妻、第2受益者死亡時の帰属権利者=甥としたり、受益者連続型信託を活用して、第1受益者=夫、第2(夫死亡後)受益者=妻、第3(第2受益者死亡後)受益者=甥とすることで、先祖伝来の財産を夫⇒妻⇒甥と移転させることが可能になります。なお、受益者は居宅に居住したり、賃貸不動産や金融資産から生活費の給付を受けることができますが、勝手に処分することはできません。

 遺言代用信託、受益者連続型信託など、信託には様々な形があります。ご自分でできないところはどんどん専門家を活用しましょう。

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)  小林 徹 CFP(R) 

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

この内容は2018年3月に相鉄不動産販売様のメルマガに掲載された内容を、同社のご了解を頂き掲載しています。 

 

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