2017年10月1日 高齢者財産管理の現場より~急速に増加中。「後見制度支援信託」

2000年から開始された成年後見制度。既に17年以上が経過し、認知症の方の財産管理に関わる人々に定着した感があります。

 ただ、成年後見制度は、家庭裁判所のチェックが入るため制限も多く、財産運用が制限されることを想定したライフプランを検討することが必要です。その成年後見人の現場において、最近急速に聞かれるようになった言葉が「後見制度支援信託」。

 この制度による財産管理は、従来型の成年後見人による財産管理の方法とは根本的に異なる方法のため、認知症の方のライフプランを検討するには、従来型とは別にこの制度を理解する必要があります。

今回は、この後見制度支援信託についてお話しします。

 

◆従来型の成年後見制度は、預貯金以外の財産の運用が制限される 

従来型の成年後見制度では、認知症の方の全財産を、国家機関である家庭裁判所のチェックの下、親族や専門職が成年後見人として管理するという特殊な制度のため、財産運用を制限されることが多いものです。基本的に預貯金以外の財産(株式・ファンド・保険・不動産など)の運用は制限されます。 

そのため、私たちファイナンシャル・プランナーは、これから成年後見制度を検討される方の相談を受ける場合、財産運用が制限されることを想定したライフプランを留意してアドバイスを行います。 

成年後見人が就任した後に財産運用が制限されることを知り、初めて私たちに相談に来られる方も少なくなく、その場合には、改めて成年後見制度を折り込んだライフプランをアドバイスすることになります。

 

◆普段使わない預貯金は、信託銀行が預かり、運用を制限する。それが後見制度支援信託 

前述の通り、従来型の成年後見人による財産管理方法とは、全ての資産を成年後見人が管理し、預貯金以外の財産の運用が制限される、つまり預貯金の運用は制限されにくいものでした。 

しかし、ごく一部ではありますが、不当に預貯金を引き出し横領する事例が問題となっており、この問題を解決するために、法律専門職ではない親族等が成年後見人に選ばれる場合は、預貯金を「(生活費など)普段使う預貯金」「普段使わない預貯金」に分類し、普段使う預貯金はご親族等の成年後見人が管理し、普段使わない預貯金は信託銀行が預かる制度を2012年より開始しました。これが「後見制度支援信託」です。

 

 

◆信託銀行が預かる預貯金を引き出すときは、その都度「家庭裁判所の許可書」が必要 

後見制度支援信託の場合、生活費・医療費・介護施設費など、毎月支出される出費は成年後見人が管理する預貯金口座から引き出し、充てられます。 

しかし、毎月の出費の増加により成年後見人が管理する口座残高が少なくなったときや、突発的な入院費や家の修繕費など、普段使わない出費が必要になった場合はどうするか、という疑問はわくかもしれません。 

この場合、個別に家庭裁判所に事情を説明のうえ、「一時金交付許可書」の取得を申請(注1)し、この許可書(注2)を信託銀行に提示することで出金が可能となります。 

このように、家庭裁判所が個別に出金の理由を審査することで、成年後見人の不正問題を防ぐことができます。

 

注釈:正式には以下の名称ですが、わかりやすく表記しています。

注1:申請書類を「報告書」と言います

注2:正式には「指示書」と言います

 

◆従来型か、後見制度支援信託かを家庭裁判所が決定 

成年後見人を決定する際、成年後見人が全ての財産を管理するのか(従来型)、それとも後見制度支援信託として信託銀行が一部の預貯金を預かるのか、具体的にいくら信託銀行が管理するのか、などは家庭裁判所が決定します。 

ただ、既に従来型の成年後見人になっている方に対しても、従来型から後見制度支援信託へ変更することを家庭裁判所が決定する場合があり、注意が必要です。 

一般的には、家庭裁判所は「法律専門職ではない成年後見人(ご親族等)」かつ「預貯金が500万円以上」の方について、後見制度支援信託の適用を検討します。 

後見制度支援信託を行う場合、まず親族等の成年後見人と一緒に法律専門職(弁護士・司法書士)が監査的立場として一時的に成年後見人に就任し、その監査の下、年間予定される生活費・医療費・介護施設費などを超える金額、つまり普段使わない金額を信託銀行に預けることになります(なお、この法律専門職成年後見人は、信託銀行に預けた後に退任し、その後は親族等が単独の成年後見人として財産管理を行います)。

 

◆急速に増加中の後見制度支援信託。事前に収支計画や対応方法の想定が大切 

2012年に開始した後見制度支援信託は、年々適用数が増加し、2016年末では成年後見人のうち約1割程度に対して、後見制度支援信託が適用されています。 

                     出所:最高裁判所事務総局家庭局集計 

 

 後見制度支援信託が適用されると、前段で取り上げたとおり、成年後見人管理の口座残高が少なくなった場合や、入院費や修繕費など例外的な出費が必要な場合など、信託銀行が管理する口座からの出金が必要になると、個別に家庭裁判所から許可書の取得が必要になり、手続きに煩雑、かつ時間を要することが少なくありません。

 

このように認知症の方のライフプランを検討される場合、成年後見制度の開始により預貯金以外の財産運用が制限されることはぜひ知っていただきたいものです。親族等が成年後見人に就任することが想定される場合、後見制度支援信託により預貯金の出金に制限がかかることも考え、事前に収支計画や対応方法を想定のうえ、家庭裁判所や一時的に就任する法律専門職成年後見人とは綿密に申し入れや打ち合わせを行い、認知症の方のライフプランの実現に充分な収支になるよう留意することが大切なのです。

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)  

ファイナンシャル・プランナー 野谷 邦宏 

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 この内容は2017年9月に相鉄不動産販売様のメルマガに掲載された内容を、同社のご了解を頂き掲載しています。

 

【免責事項】
 かながわFP生活相談センター(KFSC)は、当コラムの内容については掲載時点で万全を期しておりますが、正確性・有用性・確実性・安全性その他いかなる保証もいたしません。当コラム執筆後の法律改正等により、内容が法律と異なってしまう場合がございます。どうぞご了承くださいますようお願いいたします。万一、当コラムのご利用により何らかの損害が発生した場合も、当社団法人は何ら責任を負うものではありません。