2017年7月2日 29年度税制改正の大綱の概要

 

例年とは異なり、大きなトラブルもなく成立した平成29年度改正は、改正項目の量も質も非常に乏しい内容です。アベノミクスの成果が上がっているとは言えない昨今、税収の確保よりも経済成長を求める思いが政治には強くあり、結果として成長に重きを置いた税制改正を優先させたのではないかと考えられます。29年度改正は、将来の抜本改正を見込んだ過渡的な税制改正であると言えます。今の内から来年度改正の動向に着目しておく必要があります。

 今回は個人所得税の改正のうち配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しについて見ていきます。

 

配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し 

◆内 容 

1.配偶者控除の改正 

 配偶者控除につて、控除対象配偶者または老人控除対象配偶者を有する居住者に適用する控除額を見直すとともに、合計所得金額が

  1,000万円を超える居住者については、配偶者控除の適用はできないこととされています。 

2.配偶者特別控除の改正 

  配偶者特別控除について、適用対象となる配偶者の合計所得金額が、38万円超123万円以下とし、その控除額を見直します。

 ((注)現行は「38万円超76万円未満」です。) 

  なお、合計所得金額が1,000万円を超える居住者については、現行と同様、配偶者特別控除の適用対象外となります。 

3.所得税に係る改正は、平成30年分以後の所得税について適用されます。

 

◆改正の背景

 1.配偶者控除の見送りの経緯 

 わが国の個人所得課税においては、一定の収入以下の扶養親族を有する場合に、それぞれの事情に応じて納税者の担税力の減殺を

 調整することとしており、配偶者控除もその調整の仕組みの一つです。また、諸外国においても配偶者の存在を考慮した仕組みが

 設けられています。こうした点を勘案すれば、配偶者控除を廃止して、配偶者に係る配慮を何ら行わないことには問題があります。 

2.夫婦控除の見送りの経緯 

 夫婦世帯を対象に新たな控除を認めるとの考え方もあるのですが、全ての夫婦世帯を対象とすれば、高所得者の夫婦世帯にまで

 配慮を行うこととなり、非常に多額の財源を必要とすることから、控除の適用にあたって、夫婦世帯を対象に新たな控除を認める

との考え方もありますが、全ての夫婦世帯を対象とすれば、高所得者の配偶者控除・配偶者特別控除について抜本改革が必要なことは

理解しているものの、結果として小手先の改正に終わりました。実際のところ、改正後の控除額は非常に分かりにくくなっており、

容易には整理ができない制度となっています。

 

◆実務の注意点 

合計所得金額1,000万円前後の納税者に対しては、行政指導による接触が確実に増えると考えられます。特に、年末調整の際等は、

副業等の所得金額も関係してきますので、合計所得金額の見積額を細かく確認する必要があるでしょう。

 

◆本改正の趣旨 

パート収入を押さえる就業調整を問題視していることが読み取れます。就業調整をめぐる課題に対応するため、所得税・個人住民税に

おける現行の配偶者控除・配偶者特別控除の見直しを行います。具体的には、所得税の場合、配偶者特別控除について、所得控除額

38万円の対象となる配偶者の合計所得金額の上限を85万円(給与所得のみの場合、給与収入150万円)に引き上げるとともに、

現行制度と同様に、世帯の手取り収入が逆転しないような仕組みを設けられています。この給与収入150万円という水準は、安倍

内閣が目指している最低賃金の全国加重平均額である1,000円の時給で1日6時間、週5日勤務した場合の年収(144万円)を

上回るものです。こうした見直しは、働きたい人が就業調整を行うことを意識しないで働くことのできる環境づくりに役立つもので

あり、また、人手不足の解消を通じて日本経済の成長にも貢献することが期待されます。

 

しかしながら、就業調整する大きな理由は、年収が103万円以下であれば、本人に税金がかからないことにあると考えられ、それが、

制度上150万円に引き上げられたとしても、就業調整にプラスの影響が働くか、大いに疑問が残ります。仮に、立案者の想定通りで

あったとしても、103万円の壁が150万円の壁に変わるだけ、といった整理になるに過ぎないと懸念されます。

 

実際のところ、従来から配偶者特別控除によって103万円の壁は解消していると言われており、就業調整の問題は、103万円という

金額が先行する従業員の意識にあると指摘されていました。となれば、このような意識改革を促すのであれば、むしろ基礎控除にまで踏

み込んで改正を行う必要があると考えられます。

 

加えて、就業調整の理由は税だけでなく、社会保険にもあるわけで、税だけ先行してこのような改正を行うのは、合理的とは言えない

でしょう。事実、本改正によって妻の年収が増加して減税になった世帯でも、社会保険料の増加や妻の年収増加による配偶者手当の

減額から、世帯の手取りが減る可能性も考えられます。

 

以上を踏まえると、本改正の本音は、配偶者控除の適用対象を制限することにあり、言い換えれば富裕層に対する増税にあると考えざる

を得ないと思われます。 

 

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)

税理士 社会保険労務士 AFP 青木 信三

 KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢

献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

この内容は2017年3月に相鉄不動産販売様のメルマガに掲載された内容を、同社のご了解を頂き掲載しています。

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