2016年8月17日 「主婦のパート、103万円の壁・130万円の壁ってなに?」

 主婦がパートとして働きに出るとき、「103万円の壁」「130万円の壁」という表現がしばしば使われます。夫が会社員や公務員の場合に、奥様がパートを増やしたばかりに、かえって手取り収入面でマイナスが出る、境目の収入(年収)を指すものです。しかし、本当にパート時間を調整する必要があるのか、少し具体的に考えてみたいと思います。ここでは奥様がパートをされるケースで考えますが、逆に、奥様が会社員や公務員で、その夫がパートで働く場合も同様です。

 

◆103万円の壁って何の壁?
 103万円という金額は税金に関する「壁」です。パート収入を103万円以内に抑えておけば、本人の税金(所得税)がかからないし、ご主人の手取り収入も増える(「配偶者控除」により所得税が軽減される)ので、103万円を超えないように働くことで「壁」と言っている訳です。しかし、この壁は通常それほど神経質に考える必要はありません。理由の一つは、パート収入の増加分に対する税金面の負担増は、大きくないからです。ちなみにご主人の手取り収入が減るという点について言うと、所得税の計算には、「配偶者控除」がなくなっても、代わりに「配偶者特別控除」という制度があって、38万円の控除が一挙に0円になる訳ではなく、奥様の収入増に合わせて少しずつ減っていく仕組みになっています(ただしご主人の収入が大きいと適用されない場合があります)。

 

◆103万円の壁以外にも注意しておきたいこととは?
 夫の会社に扶養手当制度がある場合は、注意が必要です。扶養手当の支給要件として「配偶者の年収が103万円以内」としているケースも多いようです(会社により要件・金額とも異なりますので、確認が必要です)。手当の支給金額が大きい場合には、家計の手取り額合計が減ってしまう場合もあるでしょう。
 最近パートとして働くだけでなく、趣味の講座を開いて収入を得たりと、様々な仕事の形があるので、注意しておく点がもうひとつあります。「103万円の壁」というのは、正確には所得「38万円の壁」と理解しておいたほうがよいでしょう。何が違うかというと、所得は通常「年収―必要経費」であり、パート収入の場合、必要経費に相当するものとして65万円(収入が162.5万円以下の場合)をマイナスすることが認められています。だから、「103万円―65万円」で38万円となるのです。一方、自宅に生徒を集めて収入を得るような場合は、必要経費は実際にかかった額となり、年収ベースですと103万円が境界線ではなくなりますので注意が必要です。「所得」で抑えた方が正確、ということです。

 

◆130万円の壁って何の壁?

 これは社会保険で扶養家族とされる範囲に関する「壁」です。こちらはより注意が必要です。なぜなら通常、年収130万円以上になると、年金や健康保険の保険料を自分で払わなければならなくなるからです。年収が130万円未満だと、自分でこれらの保険料を払わなくても、ご主人が加入する制度によって負担してもらえているのです(年収130万円未満でも、パート先で厚生年金に加入している場合は除きます)。ちなみに年金(国民年金)の保険料は月額15,590円(平成27年度価額)です。健康保険料は自治体によって異なりますが、2つを合計すると、パート収入が130万円以上150万円くらいだと、パート収入を130万円弱に抑えたほうが手取り収入は多くなるのです。

 

 奥様がパートをされる場合、金額面での留意点は様々あります。一方で、政策的には、専業主婦優遇から女性の社会進出促進へと舵取りの転換が行われようとしています。これに伴って制度面の見直しも想定されますので、現時点の103万円や130万円の壁だけでなく、これからこの金額がどうなっていくのか、改正されるのかなど今後の動きについても留意していく必要があります。

 

<< 2016/8/17 追記 >>
◆新たな106万円の壁!!

 2016年10月から、パートタイマーのうち一定の要件を満たす約25万人を対象に、社会保険への適用が拡大されます。勤務時間が週20時間以上、1カ月の賃金が8.8万円(年収106万円)以上などの5項目をすべて満たすと、パートタイマーでも社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することになります。夫の扶養内でパートをしている主婦は、5項目の条件を満たすと、今まで上記の130万円の壁が106万円に引き下げられます。(今後対象を順次拡大し、最終的にパート全員の壁が106万円に引き下げられるようです。)
 これにより、夫が会社員や公務員の妻の手取り年収(税・社会保険料控除後)は減ることとなりますが、一方で将来の年金収入は増えますので、有利か不利かは総合的に考えることが必要です。

<< 追記終り >>

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC) 鈴木 康文CFP®

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

 この内容は2015年11月に相鉄不動産販売様のメルマガに掲載された内容を、同社のご了解を頂き掲載しています。

 

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